遺伝性乳がん 【ゲノムで知る病気のリスク第1回】
〜遺伝性乳がんの存在を、もっと世の中へ〜
昭和大学の中村清吾先生が、一人でも多くの女性を乳がんから救うために、遺伝性乳がんに関する情報を世の中に広めようとされています。
その情報をもとに遺伝性乳がんとその問題点について考えてみました。
乳がんになる女性は年々増え続けています。
1997年の乳がん罹患数3万人に対して、2010年には7万人を超えています。そして1万人以上の女性が毎年、乳がんでお亡くなりになっています。※1
乳がんを発症する方の中で、遺伝的要因が強く関与している割合は5ー10%程度と考えられています。
最もよく知られているのは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer Syndrome, HBOC)で、BRCA遺伝子の病的変異が原因とされています。 (乳がんの決定因子 参照:決定因子と危険因子の違い)
BRCA遺伝子に変異のある人は、41〜90%もの人が乳がんに、8〜62%もの人が卵巣がんになってしまうといわれています。※2
また、乳がんになった後、もう一度同側または対側に乳がんを発症したり、卵巣がんを発症したりすることも知られています。
BRCA遺伝子の病的変異は、遺伝子検査で調べることが出来ます(2014年12月保険適用外のため自費) 。
BRCA遺伝子の病的変異が同定され、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群と診断された場合は、行われる検診や予防法(パーソナルゲノム医療)が詳しく定められています。
◉遺伝性乳がんの問題点
『そもそも日本人には、遺伝性乳がんは少ないのでは?』 という誤った認識が大問題。
BRCA遺伝子の一部の特異的変異は、アシュケナージ系ユダヤ人に頻度が多いことは知られています。
日本人では、十数年前までは遺伝性乳がんは少ないという認識がありました。私自身も、日本人に遺伝性乳がんは少ないのではと思っていました。
ところが、実際の乳がん治療の現場で、
『20〜30代という若さで乳がんを発症した人に聞いてみると、家族や親族に乳がんの人がいる。そして若い乳がん患者さんは、進行してから見つかるケースが多く再発の確率も高い。』
と中村清吾先生ら乳腺専門の医師は経験されていたようです。
そこで遺伝性乳がんの共同研究を行ったところ、
遺伝性乳がんの患者さんは、 予想よりも多く欧米並みの割合であることがわかりました。※3
この事実により、遺伝性乳がんに対するパーソナルゲノム医療が本格的に動き出しています。
◉遺伝性乳がんが心配な人はどうすればいいのか?
遺伝性乳がんが心配な方は、以下7項目を確認してください。
①40歳未満で乳がんを発症した血縁者がいる
②卵巣がんになった血縁者がいる
③血縁者に乳がんを2個以上発症した人がいる
④血縁者に男性乳がんになった人がいる
⑤乳がんになった血縁者が自分を含め3人以上いる
⑥BRCAという遺伝性乳がんの遺伝子変異が確認された血縁者がいる
⑦抗がん薬、分子標的薬、ホルモン療法薬での治療が難しかった乳がんの血縁者がいる
もし、7項目のうち1つでも当てはまる場合は、一度乳腺専門医に相談をするか、遺伝性乳がんにかかわるカウンセリングをお願い致します。
相談できる医療機関がどこにあるのかは、下記のサイトを参照してください。
※1参考資料
国立がん研究センターがん対策情報センター
※2参考資料
NCCNガイドライン
※3
Cross-sectional analysis of germline BRCA1 and BRCA2 mutations in Japanese patients suspected to have hereditary breast/ovarian cance
《参考》
①スペシャルインタビュー:乳がん検診特集3 乳がんのリスクは、DNAが知っている。
②遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の遺伝子診断 BRCA1/2遺伝子検査のご案内|遺伝性乳がん・卵巣がんについて知る