DeNAライフサイエンスを訪問
- パーソナルゲノム医療の実現を目指すには、
まずは遺伝子検査を普及させてゲノムビックデータを構築させることの必要性を日々感じていました。
《過去記事》 パーソナルゲノム医療の実現にむけて
ただ遺伝子検査を普及させるとしても、
解析妥当性(分析の質)、臨床妥当性(科学的根拠の質)、臨床有用性(情報提供の質)に納得できる高品質な遺伝子検査であり、ビックデータを構築&解析できる企業じゃないと意味がないとも思っていました。
そんな中、
東京大学医科学研究所(東大医科研)の遺伝子に関する研究を世の中に還元したいという思いと、ヘルスケア領域でITを活用し構造改革をおこしたいというIT企業であるDeNAの思い合致し、DeNA(子会社DeNA ライフサイエンス)が遺伝子検査(MYCODE)サービスを8月12日から開始。
東大医科研の指導を受けて科学的根拠の質を高め、各専門分野の医師に監修を受けた情報を提供し、さらにヘルスケアビックデータを構築・解析目指すとのこと。
医師としての立場から詳細を知りたいと思い、
8月29日 11:00 〜 12:30 DeNAライフサイエンスを取材してきました。
今回取材に応じてくださったのが、
DeNA 広報部 青野光展 さん
DeNAライフサイエンス 取締役 大井潤 さん
(忙しい中ありがとうございました。)
《取材内容》
◉解析妥当性(分析の質)について
①イルミナ社「Infinium Assay法」によるDNA解析の精度、再現性が高いとのことですが、どのくらいの精度なのか?具体的にはエラーの率はどれくらいなのでしょうか。
回答
具体的な精度、再現性、エラー率に関してはデータが手元にないため後日開示するとのこと。
《開示データ》
http://www.illuminakk.co.jp/documents/pdf/datasheet_human_omni_express-24.pdf
②消費者が検査対象の約75万SNPの全データをダウンロード出来るようになるのでしょうか。
回答
全検査データがダウンロード出来るようになることは現時点ではないとのこと。
〜感想〜
検査したデータはすべて開示して欲しい。検査した全データが分かれば、MYCODEの結果に疑問を持ったときにいわゆるセカンドオピニオンを求めたり、結果を検証したりすることができます。
23andMeであった事例ですが、自分の結果に疑問をもった方が23andMeから検査データをダウンロードして、実際に疑問をもった箇所を調べて間違いを発見したことがあります。後に23andMe側もその間違いを認めて訂正しています。
◉臨床妥当性(科学的根拠)について
①2人の東大医科研教員と8人の生命系博士号の合計10人で遺伝子検査の科学的根拠を確立することが出来るのか?選定論文のサンプルサイズの基準が1000となっていますが、それで本当に科学的根拠が確立出来るのか。
回答
10名の専任チームとそれ以外の東大医科研のメンバーも協力しています。週次で千人チームのfacetofaceMTG(50回以上)を開くとともに、数千通以上の電子メールをやり取りするなど、精力的に取り組みました。
ヘルスビックデータを構築するために日本人100万人のデータを集める必要があると考えています。さらにビックデータを解析するために次世代スパコンを利用する計画です。
②ヘルスケアビックデータを構築するとのことですが、それによって新しい知見が得られた場合はどうようにするのでしょうか?
回答
東京医科研を通じて学会、論文などで公開していきます。
検査をされた方には、検査項目のプログラムを更新して最新の情報をお知らせします。
③遺伝子検査会社毎に検査結果の解釈が異なる可能性についてどう考えますか?
回答
私たちはGWASカタログ上のデータだけではなく、一本一本の論文を読み込み必要な日本人データを抽出するなど東大医科研及び弊社の研究成果も組み込んでおります。
他者のプログラムがどのようなものか把握しておりませんが、検査結果の解釈が異なる可能性はあります。
我々の研究では、日本人を対象にした研究を中心に、統計的に有為とみなされるP値が5.0×10のマイナス8乗未満となるものを採用しています。
④遺伝子検査の科学的根拠をより洗練されたものにするため、そのロジック&プロセスを公表し公開討論していく必要性についてどうお考えでしょうか?
回答
ホームページ上で公表し、是非批判的に議論していただきたいと考えています。その中で改善するべきところは改善していきます。実際に川崎病の項目について指摘を頂き改善致しました。
⑤私の家族が実際にMYCODEの検査を申し込み唾液を採取して返送しています。その中で遺伝子検査の『限界』についてあまり伝わってこなかったように思いますが、その点はどのようにお考えでしょうか?
回答
遺伝子検査の『限界』の理解・説明については、東大医科研、倫理審査委員会でも数ヶ月に及ぶ議論を繰り返し、もっとも力を注いでいるところです。購入&検査の手続きの中で4回注意喚起をし、できるだけ誤解の生じないように取り組んでいます。DeNAの社員にもその注意喚起で限界が伝わるかどうか確認しています。
限界を伝える方法についてさらに良い方法があれば改善しますので、是非教えてください。
〜感想〜
科学(医学)の発展にたいして『誠実』に取り組んでいる姿勢が印象的でした。
個人的には科学的根拠の確立に現在の統計学を用いた単純系の理論ではなく、ビックデータを用いた複雑系の中での多項目の関連(相関関係)を評価出来る手法にする必要があると考えています。
現時点で出来うる限り精度の高い科学的根拠を確立しようと日々改善していることは伝わってきました。応援したいです。
◉臨床有用性(情報の質)について
①専門の医師が監修した項目説明・予防法コンテンツ&生活改善プログラムを提供するとのことですが、それだけで十分にヘルスケア出来るとお考えでしょうか。
回答
この領域(行動変容)は東大医科研と共同研究のテーマにしています。ゲームと同じ視点(ゲーミフィケーション)で、どのようなアプローチをすれば健康改善の意欲を高め、その意欲を継続し、実際に健康な生活につながるのかを分析していきます。
②稀な疾患・専門性の高い疾患も検査項目に含まれているが、検査を受けた方が的確にその情報を活かすことができるとお考えでしょうか。
回答
同じ問題意識を持っています。専門の医師のアドバイスを基にコンテンツを作成しています。また、日本人の『遺伝リテラシー』の向上を図る観点から、全国で新聞社や地域の大学などと連携しながら「市民セミナー」を展開する予定です。9月には札幌で開催します。また、先般は、東大医科研と共催で遺伝を学ぶ「親子ワークショップ」を開催しました。
③臨床医と連携していくこと、臨床医に情報を提供していくことはお考えでしょうか。
回答
大きな課題と受け止めています。将来的には、各県に1拠点になるのか、現時点ではわかりませんが遺伝子検査に基づくヘルスケアに対応できる体制を整備できないかと考えています。東大医科研とも相談しています。
④健康診断と組み合わせて、予防やヘルスケアを実践していくことが有用だと感じていますが、その点はどうお考えでしょうか。
回答
正にそのように認識しています。
◉個人情報保護について
①情報セキュリティについてはどうなっているのでしょうか。
回答
日本で一番信頼性が高いとされている金融機関やクレジットカード情報を取り扱うシステムに要求されるPCI DDSという基準を基に設計しています。
また、経産省の定める個人遺伝情報保護ガイドラインを遵守しています。
◉パーソナルゲノム医療学会との今後の連携について
①MYCODEをパーソナルゲノム医療学会の公式遺伝子検査としたいと考えています。
回答
問題ないです。
②MYCODEの科学的根拠について、将来的にパーソナルゲノム医療学会で公開討論したいと考えています。
回答
是非お願い致します。
③パーソナルゲノム医療学会に所属する医師(現在25名)に遺伝子検査の結果に基づいて具体的に相談に応じられるように勉強会をしていきたいと考えていますが、協力してもらうことは可能でしょうか。
回答
出来ることは協力致します。必要に応じ、滋賀や大阪に担当者がお伺い致します。
④パーソナルゲノム医療学会の理念に共感している企業を通じて、健康診断の補助としてMYCODEの検査を追加していくことを考えていますが、そのようなプラン作成などで協力してもらうことは可能でしょうか。
回答
出来る限り協力致します。
最後に大井さんが話していたことに日本の危機的状況が伝わってきました。
『私たちが消費者直販の遺伝子検査をしなくても、別の誰かがするでしょう。しかし、大陸系の企業が遺伝子検査を販売することによって、日本人の究極の個人情報である遺伝情報を取得されてしまうと、日本にとっては国益を損なうことにもなりかねません。それが私たちが挑戦する理由のうちの一つです。』
パーソナルゲノム医療学会としてMYCODEが日本で普及するように具体的に応援していきます。