30代からはじまる脳の変化 〜家族性アルツハイマー病
2012年国際アルツハイマー病会議(AAIC2012)でひときわ注目を集める発表があった。
米国ワシントン大学のBateman氏によるDIAN(Dominantly Inherited Alzheimer Network)研究の発表だ。
発症年齢が推定できる家族性アルツハイマー病、その原因遺伝子をもつ可能性の高い人たちを若いときから長期に追跡し、アルツハイマー病を発症するどのくらい前からどのような変化が脳の中ではじまるのかを調べた。
家族性アルツハイマー病と原因遺伝子については、アルツハイマー病とゲノムを参照。
未発症の128人(遺伝的キャリア88人、非キャリア40人)のMRIでの海馬の大きさ、PET画像でのアミロイドβ(Aβ)蓄積、脳脊髄液のタウ濃度とアミロイドβ42(Aβ42)濃度などを測定した。
横軸は対象者の年齢と推定発症年齢(=親の発症年齢)から発症までの推定年数を算出し、縦軸は測定した数値をあらわした。(下図)
まず変化があらわれたのは脳脊髄液のAβ42濃度の低下だ。
発症の約25年前、非キャリア群に比べて高値を示していた遺伝的キャリア群の脳脊髄液のAβ42濃度が減少しはじめ、発症の約10年前には非キャリア群よりも有意に低値となっている。
脳脊髄液のAβ42濃度とAβの脳から脳脊髄液への排出量には関連があり、脳脊髄液のAβ42濃度が低いと脳内のAβの蓄積量が多いことがわかっている。
つまり発症の25年前から脳内でAβがたまりはじめているのではと推測される。
この推測と一致するかのように、発症の約15年前から脳内のAβ蓄積(PET画像)および脳脊髄液のタウ濃度が顕著に増加している。そして発症の約10年前から海馬の萎縮や認知機能の低下がみられた。
Bateman氏は「推定発症年齢の10年前には両群間のAβ量の差は明らかであり、遺伝的キャリア群の脳内Aβの蓄積は、少なくとも発症15年前には始まっていると考えられる」と言う。
遺伝的キャリア群と非キャリア群の脳内のAβの蓄積量をイメージングしたPET画像からもそのことがよくわかる。(下図)
DIAN研究の結果をそのまま遅発型アルツハイマー病に当てはめることはできないが、発症までの脳の変化が時系列でわかったことによって、遅発型アルツハイマー病の発症過程の解明や新薬開発につながることが期待できるだろう。
すでにAβと遅発型アルツハイマー病の発症との関連を調べた報告、そしてAβやタウを標的とした治験がはじまっている。
(参考)