アルツハイマー病とゲノム
平均寿命が延び続けているいま、『わたしはアルツハイマー病になるのではないだろうか』と心配する声は少なくない。高齢になるほどアルツハイマー病が発症しやすくなるからだ。
元気で長生きして、かつアルツハイマー病にはならない。これが重要だ。
そんな中、アルツハイマー病と遺伝の関係についてすこしずつ分かりはじめている。
欧米では40代から50代で発症する早発型アルツハイマー病の家系の存在が知られていた。常染色体優性遺伝で、親の発症年齢とほぼ同年齢で発症することが多い。この家系からは、アミロイド前駆体蛋白質(APP)、プレセニリン1(PSEN1)、プレセニリン2(PSEN2)の遺伝子変異がみつかっている。そして、これらの遺伝子によって引き起こされるアルツハイマー病を「家族性アルツハイマー病」という。
それ以外のアルツハイマー病(遅発型アルツハイマー病)は、遺伝要因は重要視されているものの明確な法則を説明するには至ってない。家族や一卵性双生児の研究によれば、遺伝率(集団内での形質の表現形のばらつきの程度に遺伝が寄与する割合)は60〜80%と推測されている。
この遅発型アルツハイマー病の危険因子として、アポリポ蛋白E(APOE)遺伝子などが注目されている(注:将来の予測としてのAPOE遺伝子検査には議論がある)。
これらの遺伝子により、アミロイドβ(Aβ)とよばれるたんぱく質の量が増えたり(量的異常)、アミロイドβが脳内で蓄積、沈着しやすくなったり(質的異常)する。
そしてそのアミロイドβによって老人斑(アミロイドβの沈着物)やタウ蛋白がリン酸化して神経原線維変化(NFT)が生じる。そのときには神経細胞死(神経変性)がはじまっていて、海馬などが萎縮しアルツハイマー病を発症する。(アミロイド仮説)
※ 現在老人斑ではなく、数個~数十個のアミロイドβが会合した小さな集合体「オリゴマー」を形成し、これがアルツハイマー病の異常脳病理変化を引き起こすという考え方が主流となっている。
今後これらの遺伝子やたんぱく質の研究が進み、アルツハイマー病の発症メカニズムを特定し、その異常に合わせた予防や治療が可能になる日がくるだろう。
事実、その手がかりとなる成果がいくつも報告されている。
(参考)