ゲノム薬理学〜あなたにふさわしいお薬を知ろう!
個人のゲノムによって薬剤への応答性がどう変わるかを研究する学問をゲノム薬理学という。
医者が患者さんを治療するとき、年齢や性別、体重、肝臓や腎臓の機能などの情報をもとに最も患者さんにあうと判断したくすりを処方している。しかしそれがいつも成功しているわけではない。(参照:薬はなぜ人によって効果が違うのか)
ゲノム薬理学は個人の遺伝子による薬剤の反応の違いを導きだし、その人にふさわしいくすりをみつける手助けとなる。近い将来、パーソナルゲノム医療が普及したときには、まず遺伝子検査をしてから薬を処方することが薬剤治療の主流になるだろう。
すでに遺伝子とくすりの用量、副作用、効果の関連がわかっているものがいくつかある。
ワルファリン(商品名:ワーファリン)
ワルファリンは血のかたまり(血栓)ができないようして、心筋梗塞、肺塞栓、脳梗塞など血栓塞栓症を予防する。その反面、過剰に服用すると消化管出血や脳出血のリスクが上昇してしまう。
血栓を予防し副作用は少ない理想的なワルファリンの用量を決めるのは、たび重なる血液検査が必要となり患者さんにとって大変だ。なぜなら、ワルファリンの至適用量は患者さんによって10倍近くも違ってくるからだ。
2005年、ワルファリンの至適用量の個人差にCYP2C9とVKORC1という二つの遺伝子が40%も影響していることがわかった。(下図)
CYP2C9はワルファリンを代謝する酵素を指示(コード)している。VKORC1はワルファリンの効果を減弱するビタミンKを活性化する酵素を指示している。
これらの遺伝子の研究によってワルファリンの至適用量が事前に予測できるようになるだろう。現在、米ワシントン大学で2010年から5年間の計画で、遺伝情報に基づくワルファリン用量を検討する大規模臨床試験が行われている。
スタチン(商品名:リピトール、クレストールなど他4種類)
スタチン系の薬剤は、1973年に日本の遠藤章らによって発見されてから、血液中のコレステロール値を下げるくすりとして世界中で使用され続け、心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを低下させている。
しかし、この薬を高用量飲んだときに1〜2%の人に筋肉痛など筋肉が損傷したときの症状がでる。この副作用は血液検査などで早期発見され、通常くすりを中止後時間とともに回復しているが、患者さんは回復までのあいだ辛い思いをしている。
この筋損傷に影響を与えるのは、SLCO1B1やCOQ2という遺伝子であることがわかりはじめている。SLCO1B1は肝臓内でスタチンの取り込みに関わっているたんぱく質を指示している。SLCO1B1に変異があると、スタチンが肝臓に取り込まれず血液中のスタチン濃度が上昇し、筋損傷などの副作用が出やすい可能性がある。
将来的には遺伝子検査でこれらの遺伝子変異をもっている人には、このくすりを処方しないか、かなりの低用量で処方するように厚生労働省が指導するようになるのではないか。
個人に適したくすりを選択できるようにするため、ゲノム薬理学も推進していきたいと思う。
(参考)
さぁ、あなたも遺伝子検査を受け、パーソナルゲノム医療専門医に相談し、パーソナルゲノム医療を始めよう!