アミロイドβの有無でアルツハイマー病を予測できるか?
家族性アルツハイマー病では発症15年以上前からアミロイドβ(Aβ)が脳内で蓄積しはじめることが、DIAN研究で報告された。
DIAN研究については、30代からはじまる脳の変化 〜家族性アルツハイマー病を参照。
では遅発型アルツハイマー病とAβの関係はどうなんだろう。
2014年3月、そんな疑問に答えるかのようにDuke MedicineのP. M. Doraiswamy氏らが、
『フロルベタピルF18アミロイドPETと36ヶ月間の認知機能低下:前向き多施設研究』
をMolecular Psychiatry誌に発表した。
フロルベタピルは、認知機能障害と診断された患者の脳内のAβ蓄積を測定するために2012年に米国食品医薬品局(FDA)が承認した診断薬である。
このフロルベタピルを用いたPET画像でAβがみられる被験者(Aβ+)とAβがみられない被験者(Aβ-)で認知機能低下を予測できるかどうか調べた。
認知正常(CN)69名、軽度認知機能障害(MCI)52名とアルツハイマー病(AD)31名の36ヶ月間の変化は以下の図の通りだった。
軽度認知機能障害は、記憶力は低下しているが、他の認知機能障害は軽く、日常生活に支障をきたしていない状態のこと。
ADAS(アルツハイマー病評価スケール)は、見当識、記憶、言語機能、行為・構成能力を評価し、70点満点で得点が高いほど認知機能が低下している。アルツハイマー病の経過をみていくためにも使用される。
MMSE(ミニメンタルステート検査)は、見当識、記憶力、計算力、言語的能力、図形的能力を評価し、30点満点で得点が低いほど認知機能が低下している。
Aβ+の認知正常な人や軽度認知機能障害のある人は、3年間で認知機能が大幅に低下した。
このことから遅発型アルツハイマー病においてもアミロイドβがアルツハイマー病への進行、そして発症に大きく影響していることがわかる。
反対にAβ-の人は認知機能がほぼ低下しなかった。注目すべきはAβ-の軽度認知機能障害の90%は、アルツハイマー病に進行しなかった。
軽度認知機能障害の約50%が5年以内にアルツハイマー病に進行することが判明しているが、PET画像でアミロイドβがみられなければアルツハイマー病に進行するリスクが低いことがわかる。
これは軽度認知機能障害でアミロイドβがみられない人々の安心につながるだろう。そして予防的にドネペジル(商品名:アリセプト)などを飲むかどうか判断する材料にもなる。
私はアミロイドβの蓄積が遅発型アルツハイマー病発症のすべての要因だとは思わない。しかし、発症要因の大部分をしめているのではないかと思っている。
近い将来『アミロイドβ型アルツハイマー病』のような病名が採用され、このタイプの遺伝的リスクの高い人々が、若いときから血液検査やPET画像などでアミロイドβ蓄積の有無を調べたり、アミロイドβ除去薬などで予防&治療したりする日がくるのではないだろうか。
現在すでに、アミロイドβ除去薬の臨床試験が開始されている。